「競売価格なら安く買い戻せる」は大きな勘違い!債権者が任意売却で求める価格とは?
「競売価格なら話がまとまる」は本当?実は多い勘違い
住宅ローンの返済が難しくなり競売の通知が届くと、「競売価格より少し高い金額なら債権者も納得してくれるのでは?」と考える方は少なくありません。しかし、この考え方は実際には大きな誤解であり、任意売却がうまく進まない原因になることもあります。
特に、自営業者や経営者、研究職・技術職の方、そして自分で考えて判断する力が高い方ほど、この思考に陥りやすい傾向があります。
今回は、競売価格の仕組みと、債権者がどのような基準で任意売却の価格を判断しているのかを詳しく解説します。
競売価格はどのように決まるのか
まず理解しておきたいのが、競売価格は市場価格そのものではないということです。
裁判所は競売を行う際、不動産鑑定士に物件の調査を依頼します。不動産鑑定士は現地調査や周辺相場などを踏まえ、
・本来の市場価格
・競売という特殊事情を考慮した価格
の両方を評価します。
一般的には、市場価格の約7割程度が競売の評価額になるケースが多く見られます。
例えば、
・市場価格1億円の物件 → 約7,000万円
・市場価格5,000万円の物件 → 約3,500万円
というイメージです。
都心部など人気エリアでは値下げ幅が2割程度で済むこともありますが、多くの場合は約3割程度下がると考えてよいでしょう。
売却基準価格と入札可能価格
競売ではさらに次のような価格設定があります。
・不動産鑑定士が算出した価格
・裁判所が設定する「売却基準価格」
・最低入札価格(入札可能価格)
最低入札価格は、売却基準価格のおよそ8割に設定されます。
つまり、
市場価格100%
↓
競売評価 約70%
↓
最低入札価格 約56%
という流れになります。
この「市場価格の約56%」という数字だけを見ると、「このくらいで債権者と交渉できるのでは?」と考えてしまう方が多いのです。
この勘違いをしやすい人の特徴
実際によく見られるのは、次のようなタイプの方です。
自営業者・経営者
経営者は日頃から自分で情報を集め、分析し、判断してきた経験があります。
そのため、
「競売になるくらいなら、少し上乗せした価格で売れば債権者にもメリットがあるはず」
と合理的に考えます。
商売の感覚としては非常に自然な発想です。
技術者・研究者
研究者や技術者も論理的思考を得意とします。
数字や仕組みを分析し、
「競売価格より高ければ双方にメリットがある」
という結論に至ることがあります。
しかし、債権回収の世界では、このロジックだけでは判断されません。
自分の考えを強く持つ人
自分なりの考えをしっかり持っている方ほど、
「この理屈なら相手も納得するはず」
と思いやすくなります。
しかし、任意売却では「自分にとって合理的かどうか」と「債権者が納得するかどうか」は全く別問題なのです。
なぜ債権者は競売価格では納得しないのか
ここが最も重要なポイントです。
多くの方は、
「競売なら3,500万円で売れてしまう。だったら3,700万円で売れば債権者も得をするのでは?」
と考えます。
しかし、債権者はそのようには考えていません。
債権者が見ているのは市場価格
金融機関や保証会社は、
「任意売却をするのであれば、市場価格に近い価格で売却するべき」
という考え方を持っています。
競売価格は、
「競売という特殊な手続きだから安くなる価格」
であって、
「通常売却の基準価格」
ではありません。
市場価格が5,000万円の物件であれば、
「できる限り5,000万円に近い価格で売却してください」
というのが基本姿勢になります。
「競売ならこの金額だから」は債務者側の発想
競売の資料を見ると、「市場価格よりかなり安い金額で売却されるのだから、その価格より少し高ければ債権者にもメリットがあるはずだ」と考えてしまう方は少なくありません。
例えば、市場価格5,000万円の物件に対して売却基準価格が3,500万円だった場合、「3,700万円や3,800万円で買ってくれる人を見つければ、競売より高く売れるのだから問題ないだろう」と考えるのです。
一見すると合理的な考え方にも思えます。実際に、商売をされている方や経営者であれば、「少しでも回収額が増えるなら相手も納得するだろう」という発想になるのは自然なことです。
しかし、この考え方はあくまでも債務者側の論理であり、金融機関や保証会社などの債権者は、まったく別の基準で判断しています。債権者にとって競売価格は「競売だから安くなる価格」であり、任意売却で交渉する際の基準価格ではありません。そのため、競売価格に少し上乗せした程度の金額を提示しても、「市場価格で売却する努力をしていない」と判断され、交渉が進まないケースがほとんどなのです。
債権者は「得か損か」だけで判断していない
ここが一般の方と債権者との大きな違いです。
債務者は、
「最悪のケースより少しでも高ければ良い」
と考えがちです。
一方で債権者は、
「適正な手続きで適正価格を目指したか」
を非常に重視します。
つまり、
・市場価格に近い価格で販売活動をしたか
・正規の手続きを踏んだか
・売却努力を十分行ったか
という点が重要なのです。
特に行政は手続き重視
市役所や税務署など行政機関は、民間企業以上に手続きを重視します。
税金の回収においても、
「法律に基づく適切な手続きを行ったか」
が重要であり、
多少回収額が少なくても、正しい手続きを経ていれば問題ないという考え方が基本です。
そのため、
「競売価格より少し高いから認めてほしい」
という交渉は、ほとんど受け入れられません。
「親族に買ってもらえばいい」は通用しない理由
競売の通知を見ると、
「親族に競売価格より少し高く買ってもらえばいい」
と考える方もいます。
気持ちは理解できます。
しかし債権者は、
「市場価格で売却できる可能性があるのに、なぜ安く売る必要があるのか」
という立場です。
つまり、
競売価格を基準に話を進めようとしても、交渉のスタートラインにも立てないケースがほとんどなのです。
唯一の例外となるケース
もちろん例外が全くないわけではありません。
例えば、
・個人間の債権
・民事訴訟による損害賠償請求
・交通事故の賠償請求
など、金融機関ではない個人債権者が相手の場合です。
このようなケースでは、
「競売になるよりは少し高い金額で解決したい」
という判断がされることがあります。
実際に、競売価格へ多少上乗せした金額で和解が成立するケースもあります。
ただし、これは非常に珍しいケースです。
住宅ローンや保証会社、金融機関が債権者である場合には、基本的には当てはまりません。
任意売却では「債権者の考え方」を理解することが重要
任意売却を成功させるためには、自分の考えだけで価格を決めるのではなく、債権者がどのような基準で判断しているのかを理解することが欠かせません。
競売価格は、あくまで競売という特殊な売却方法における価格です。
任意売却では、市場価格を基準に販売活動を行い、その上で債権者の理解を得ることが基本となります。
「競売価格より少し高ければ大丈夫」という考え方では、交渉が進まない可能性が高いため注意が必要です。
まとめ
競売価格は市場価格より大幅に低く設定されるため、「その価格に少し上乗せすれば債権者も納得してくれる」と考えてしまう方は少なくありません。しかし、金融機関や保証会社、行政機関が重視しているのは、競売価格ではなく「市場価格に近い適正な価格で売却する努力がなされたか」という点です。
任意売却を成功させるには、債権者の考え方や手続きのルールを正しく理解し、それに沿った価格設定と交渉を進めることが重要です。思い込みだけで判断せず、専門家に相談しながら進めることで、より良い解決につながる可能性が高まるでしょう。
この記事を書いた専門家

- 任意売却の専門家
-
(有)ライフステージ代表取締役
「不動産ワクチンいまなぜ必要か?」著者、FMヨコハマ、FMさがみ不動産相談所コメンテーター、TBSひるおび出演。単に家を売るだけでなく「お金に困らない暮らし」を提案している
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