任意売却できない5つのケースとは?住宅ローン問題で後悔しないために知っておくべき現実

住宅ローンの返済が難しくなったとき、有力な選択肢として知られる「任意売却」。しかし、すべてのケースで任意売却ができるわけではありません。実際には、条件や状況によっては任意売却が成立しないケースも存在します。本記事では、住宅ローン相談の現場で数多くの事例を見てきた立場から、「任意売却ができない代表的なケース」について、できるだけ分かりやすく詳しく解説していきます。

このページの目次

任意売却とは何かを簡単におさらい

任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合に、金融機関(債権者)の同意を得たうえで不動産を売却する方法です。
競売と違い、市場価格に近い金額で売却できる可能性が高く、引っ越し時期の調整や近隣に知られにくいなど、多くのメリットがあります。

一方で、「任意売却は万能ではない」という点を正しく理解しておく必要があります。
その判断を誤ると、「任意売却できると思っていたのに、結局競売になってしまった」という最悪の結果を招きかねません。

任意売却が成立するために必要な5つの要素

任意売却の可否を判断する際に、最も重要なのが
「負債」と「資産」のバランスです。

負債に含まれるものとは?

住宅ローン残債

住宅ローンの残債とは、単純に「残っている元金」だけではありません。
・元金
・遅延損害金
・競売申立費用(予納金)
これらすべてを合算したものが、実際の住宅ローン残債です。

遅延損害金の注意点

返済が遅れると、年14%前後の遅延損害金が発生します。
特に「期限の利益を喪失」した後は、残債全額に対して遅延損害金がかかるため、負担は一気に重くなります。

住宅ローン以外の借入(無担保ローン)

カードローンや消費者金融などの無担保債務も重要です。
「担保がないから関係ない」と言われることもありますが、これは大きな誤解です。

延滞すれば裁判を起こされ、不動産に差押え登記をされる可能性があります。

未納税金

任意売却において注意が必要なのが未納税金です。
・固定資産税
・住民税
・自動車税
・健康保険料
1円でも未納があれば、必ず確認・把握してください。
税金は無担保債権とは比較にならないほど、影響力が強い存在です。

売却にかかる諸費用

・仲介手数料
・抵当権抹消費用
・引っ越し費用(ケースによる)
これらも広い意味で「負債」として考えます。

資産に含まれるものとは?

不動産の売却代金

売却価格です。

手持ち資金

現金・預貯金など。

その他資金

・退職金の前借り
・生命保険の解約返戻金
・車の売却代金
一時的にでも使える資金は、すべて資産に含めます。

負債と資産のバランスで見る任意売却の可否

資産 > 負債 の場合

この場合は、債権者の同意なしで売却が可能です。
住宅ローンが滞納中であっても、原則として自由に売却できます。
※ただし、競売がすでに進行している場合は期限に注意が必要です。

資産 = 負債 の場合

売却代金や手持ち資金で全額返済できるため、
このケースも任意売却に問題はありません。

資産 < 負債 の場合

この場合のみ、債権者の同意が必須となります。
ここからが「任意売却できないケース」が発生しやすいゾーンです。

任意売却できない5つの代表的なケース

ケース1:債権者の同意が得られない

資産が負債を下回る場合、
「売却代金をどの債権者にいくら配分するか」について同意が必要です。
この同意が得られなければ、販売活動すらできません

特に注意が必要なのが、
・無担保ローンが多い
・ノンバンク系の借入が多い
・未納税金が多額
このような場合、同意を得る難易度は一気に跳ね上がります。

ケース2:債権者が指定する売却価格が高すぎる

債権者の同意が取れたとしても、
「この金額以上で売ってください」と条件を付けられることがあります。

しかし、その価格が市場相場とかけ離れていれば、
・買主が見つからない
・結果的に任意売却が成立しない
という事態になります。

ケース3:不動産自体に重大な問題がある

例えば、
・雨漏りが深刻で修復不能
・建物が大きく傾いている
・再建築不可物件
などの場合、価格は大きく下がります。

競売価格とほとんど変わらない場合、
債権者は「わざわざ任意売却にする意味がない」と判断します。

ケース4:引っ越し先が確保できない

任意売却の多くは、売却と同時に退去が前提です。

しかし、
・無職で賃貸審査に通らない
・実家に戻れない
・ペット可物件が見つからない
といった理由で引っ越し先が確保できないケースも少なくありません。

リースバックという選択肢もありますが、
収入がまったくない場合は成立しないことがほとんどです。

ケース5:売主に意思能力がない(認知症など)

認知症などで意思能力がない場合、
本人単独での任意売却は不可能です。

成年後見人を立てれば可能性はありますが、
・家庭裁判所への申立
・医師の診断書
・売却ごとの裁判所報告
など、時間と手間がかかります。
競売期限に間に合わないケースも多いのが現実です。

「当てはまったら終わり」ではない

ここまで5つのケースを解説しましたが、
当てはまったからといって即終了ではありません。
・交渉次第で可能性が残るケース
・他の方法を組み合わせるケース
も存在します。

重要なのは、早い段階で正しい判断をすることです。

任意売却について多くの人が誤解しているポイント

任意売却ができないケースを見ていくと、実際には「制度の問題」というよりも、誤解や思い込みによって状況を悪化させてしまっているケースが非常に多いことに気づきます。ここでは、相談現場で特に多い誤解について解説します。

「滞納していないからまだ大丈夫」という誤解

住宅ローンの相談でよく聞くのが、「まだ1円も滞納していないから大丈夫だと思っていました」という言葉です。しかし、任意売却の可否は滞納の有無だけで判断されるものではありません

すでに収入が減少している、ボーナス返済に依存している、税金の支払いが遅れがちになっているといった状態は、金融機関から見れば「将来的に返済が難しくなる兆候」と判断されます。滞納が始まってから動くのではなく、滞納する前に相談する方が選択肢は多いのが現実です。

「家は高く売れるはず」という希望的観測

売主の立場になると、「この家はもっと高く売れるはずだ」という気持ちがどうしても強くなります。特に長年住み続けた家であればあるほど、思い入れが価格判断に影響してしまいます。

しかし、任意売却では市場が決める価格がすべてです。
希望価格に固執してしまうと、販売期間が長期化し、その間に競売手続きが進行してしまうというケースも少なくありません。結果として「値下げする頃にはもう間に合わなかった」という事態に陥ることもあります。

「税金は分割で払っているから問題ない」という思い込み

税金の滞納については、特に危険な誤解があります。それが、「役所と分割の約束をしているから差し押さえはされない」という考え方です。

現実には、分割納付の約束があっても、役所の判断で差押え登記が入ることは十分にあります。差押えが入ると、任意売却の手続きは一気に難しくなります。税金については楽観的な判断をせず、常に最悪のケースを想定することが重要です。

相談が遅れる人に共通する特徴

任意売却が難しくなる人には、いくつかの共通点があります。

誰にも相談せず一人で抱え込む

「家族に心配をかけたくない」「恥ずかしくて言えない」といった理由で、誰にも相談しないまま時間が経過してしまうケースは非常に多いです。しかし、その間にも遅延損害金は増え、競売のリスクは高まっていきます。

インターネット情報だけで判断する

最近はネット上に多くの情報がありますが、任意売却は個別性が非常に高い問題です。表面的な情報だけで「自分も同じだろう」と判断してしまうと、取り返しのつかない結果を招くことがあります。

「そのうち何とかなる」と先延ばしにする

収入が回復する見込みがないにもかかわらず、「もう少し様子を見よう」と先延ばしにすることで、選択肢がどんどん減っていくケースも少なくありません。任意売却は時間との勝負であることを忘れてはいけません。

実際に判断を誤ってしまったケースから学ぶこと

実務の現場では、「もう少し早ければ任意売却できたのに」というケースを何度も目にします。

例えば、
・売却価格にこだわりすぎた
・税金の差押えを軽く考えていた
・引っ越し先の準備を後回しにしていた
こうした一つ一つの判断ミスが積み重なり、結果的に任意売却ができなくなってしまうのです。

任意売却を成功させるために本当に必要な視点

任意売却を成功させるために最も大切なのは、「希望」よりも「現実」を正しく見ることです。
・いくらで売れるのか
・いくら返済しなければならないのか
・どこまでなら債権者が譲歩するのか
これらを冷静に把握し、早い段階で専門家と一緒に方向性を決めることが、結果として自分と家族を守ることにつながります。

まとめ

任意売却は住宅ローン問題を解決する有効な手段ですが、すべての人に必ず適用できるわけではありません。負債と資産のバランス、債権者の同意、未納税金、不動産の状態、そして売主本人の状況など、さまざまな要因が複雑に絡み合います。「任意売却できないケース」を正しく知ることで、無駄な時間を失わず、より良い選択肢を見つけることができます。少しでも不安を感じたら、早めに専門家へ相談することが、後悔しない第一歩です。

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この記事を書いた専門家

茂木智子