ボケなど痴呆症(認知症)になってしまった場合の自宅、マンションの任意売却
親が痴呆症にかかってしまって、住宅ローンが払えない状態になってしまったので、自宅のマンションを売りたいと思い不動産会社に相談したが断られてしまった。。。
超高齢化社会で長い人生ですから、このようなことは、そこかしこに発生しています。
こんにちは任意売却の専門家杉山善昭です。
今回は認知症になってからのご自宅、マンションなどの不動産任意売却についてのお話しです。
このページの目次
認知症になると不動産を売れない?
認知症になるとなぜ任意売却に支障があるのか、先に説明しましょう。
任意売却に限らず、不動産の売買をする際は本人の契約能力という点が非常に重要になります。
分かりやすく言うと、三才の子供に不動産の売買の事を説明してもそれは無理だということは言うまでもないですよね。
痴呆症にかかるということは、自分自身がその法律行為(不動産売買)をする意味を理解できない状況です。
不動産は金額も高額ですから、こういった状態の人の財産を保護してあげる必要がありますので、認知症で本人の意思が確認できない場合、不動産の売買をすることができないのです。
普通の会話ができればお医者さんは不要
万が一のために、お医者さんの診断をしていただくのが望ましいですが、普段の会話ができれば全く問題ありません。
例えば、昨日のお昼ごはんに何を食べたか忘れてしまったとしても、思い出す手順がはっきりしていればOKです。
昨日は朝洗濯して、それから銀行へ行った帰りにお友達とあって、一緒にあのお店に行って、、、あぁお蕎麦を食べたわねぇ~という感じは誰にでもあります。
逆に、昨日のお昼に何を食べたか質問をした時に、今日のお昼ご飯の話をしたりするのは、ちょっと注意だなぁと私は判断します。
売却する土地について、どんないきさつで購入したか思い出せないとか、そもそもそんな家は持ってないという話がでたとしたらかなり厳しいと言わざるを得ませんが、仕事の関係でここに来ることになって、たまたま知り合いが持っていた家を売ってもらった。というような普通にお話しができるなら問題は低いと判断できます。
お医者さんによる診断が必要な時とは?
ただ単に物忘れが多くなってきただけで即、認知症とはなりません。
筆者も実務上良く遭遇するのですが、子供さんが認知症ではないかと疑っている状態でも、意外ときちんとお話しが出来たりします。
もっともその逆もありますが、、、
前述したような「ちょっと怪しいな」と感じたら、やはりお医者さんの診断を受けることをお勧めします。
周りの人が大丈夫だと思って不動産の売却を進めていたが、途中で本人の意思確認ができずにダメになってしまう事もあります。
不動産の売買においては、まず不動産会社が面談して、最終的には不動産の名義変更手続きを行う司法書士が本人の意思確認をします。
しかし、不動産会社も司法書士も認知症の専門家ではありませんので、大丈夫かどうか正確な判断はできかねます。
ちょっと怪しいなと感じた場合、専門家として売買を中止せざるを得ません。
何故かというと、例えばこんなケース。
売却した後しばらく経過して、本人から「あの土地勝手に売ってきてけしからん!」などと追及された場合、非常に厄介なことになります。
ご親族から「先生大丈夫ですよね?」と希望にあふれたご要望を受ける事がありますが、不動産会社も司法書士も危うきに近づかず。というより危うきに近づけず。となります。
不動産売買ですから金額も大きいですから、売買契約を途中で解除すると相当のペナルティーを取られることにもなりかねません。
本人が認知症か否かについて事前に確認しておくことは非常に重要なポイントで結局は自分のリスクを回避することになります。
物忘れと認知症の境目は素人が判断をすることが難しいですので、「おかしいな」とお感じになったらお医者さんの診断を仰ぐことがベストです。
認知症だった場合どうすればよいのか?
認知症にも軽度から重度のものがあります。
軽度の場合、保佐人、補助人という人がサポートすることにより、不動産を売却することができますので、こちらはそれほど大きな問題になりません。
問題は、「判断能力が欠けている」と判断された場合。つまり意思能力がない場合です。
この判断をされると本人は、自分の意思で不動産の売却をすることができません。
こうなると一切不動産を売れなくなるか?というとそれは違います。
法律はきちんと救済措置を設けています。
代理の委任状を作れば不動産を売却できるか?
実務で相談を受けるのですが、本人である親に委任状を子供へ発行し、その委任状をもって不動産の売却ができないか?というものです。
残念ながらこれはNGです。
そもそも本人に意思能力がなければ委任契約もできないからです。
子供が委任状を作成し、勝手に親のハンコを押印しても、それは無権代理といって認められません。
ちなみに、代理人と使者についても触れておきますが、代理人とは本人の代わりに判断をし、法律行為ができる人のことをいい、使者とは本人の代わりに手続きをすることはできますが、判断はすることができません。
繰り返すようですが、代理人にしても使者にしても根本となる本人の意思確認ができない状態では代理人も使者も専任することができません。
また、認知症を隠して親族が不動産を売ろうとした結果、途中で頓挫して契約が履行できなかったという事になると、事実を隠匿した人に損害賠償請求される可能性が非常に高くなりますので注意が必要です。
成年後見人をつければ不動産を売ることができる?
意思能力が無くなってしまった本人の代わりに、成年後見人が本人に代わって法律行為をすることができます。
その点では、ボケてしまったら一巻の終わりではありませんので喜ばしい所です。
ちなみに成年後見人がついた本人を成年被後見人と呼びます。
成年後見を申し立てる事ができるのは・本人・配偶者・4親等以内の親族などです。
市区町村長も申請ができることになっていることは意外と知られていません。
成年後見人は司法書士や弁護士がなることが多いですが、親族でもなることができます。
但し、成年後見人は誰もがなれるわけではなく、裁判所が判断して成年後見人を決めます。
では成年後見人を付けて、さっそく不動産を売却。。。というとそう簡単にいかないのです。
というのも、成年後見人は不動産を売る人ではなく、本人の財産を守る人だからです。
成年後見人は本人に代わって本人の財産を守る人ですから、不動産の売却は基本的に成年後見人が独断でできる業務ではないのです。
不動産が売れない場合とは?
家やマンションなどの不動産を本人に代わって、成年後見人が売却するためには、「裁判所が認める正当理由」が必要になります。
先ほど記載した通り、成年後見人は本人の財産を守る人であって処分する人ではないからです。
売却せざるを得ない特別な理由が必要となり、それを認めるのが裁判所。
つまり家やマンションを売るために裁判所の許可が必要になります。
居住用財産の売却許可と言います。
誤解されやすいのですが、これは現在居住している不動産の他、過去に居住した事のある不動産も含まれるという点です。
では逆に、一度も居住したことがない不動産は裁判所の許可が不要なのか?という点ですが、その通り、裁判所の許可がなくても売却はできます。
但し、くどいようですが売却するための正当理由は必要です。
正当理由は複数ありますが、「空き家でもったないから」というような軽い理由では認められません。
「施設に入ることになり、手持ちの現金では費用の負担ができないため、不動産を売却するしかない」
「家が老朽化して倒壊の危険があるが、経済的事由で建物の維持管理ができない」
などと言った理由が必要になります。
誰からみても、「その事情では手放さざるを得ないな」と認めてもらう理由が必要になるという事です。
裁判所の許可を受けずに売ったら?
例えば、本人の子供が成年後見人だとします。
この子供が、本人が認知症だと言わずに、また裁判所の許可を得ることなく売却をしてしまった場合、どうなるのでしょうか?
実務的には、本人の意思確認が必要ですので、実現する可能性は低いと言えますが、万が一できた場合の話です。
法律的には、裁判所の許可を得ることなく、成年被後見人の所有する不動産を売却してもその契約は無効となります。
無効となるのだから、白紙に戻る事になりますが、一旦成立した契約を白紙の状態に戻そうとすると、登記を元に戻したり、各種の損害が発生します。
契約自体は無効になりますが、損害は発生する。
その損害が発生は、誰に責任があるのか?
当然、告知せずに売却をしようとした成年後見人です。
必然的に損害賠償の請求をされることになります。
売却できたお金を親族が使える?
こちらも実務上の余談になりますが、仮に成年後見人が本人の不動産を売却することができたとしても、そのお金は本人のもので管理は成年後見人が行います。
従って、親族はその売却金を勝手に使うことはできません。
実務でも良く遭遇しますが、これが分かった途端に落胆するご家族が意外と多いです。
うるさいことを言わない不動産会社に頼めばOK?
こちらも実務上で良く聞く話です。
確かに、不動産会社もいろいろです。
成年後見制度に詳しくない不動産会社も一定数いても不思議ではありません。
「ウチなら大丈夫」という不動産会社がいるかもしれません。
しかし、認知症に関しては、大丈夫かどうか確たる保証がないので言い切ることはできません。
目先の売上だけに焦っている不動産会社かもしれませんので、この点は十分注意をしていただきたい部分です。
特に親族が焦っている場合、うっかり美味い話に騙されてしまうことが多々ありますからね。
一旦子供名義にすれば自由に売れる?
不動産の名義を移動させるためには、・権利書・印鑑証明等があれば登記の名義変更手続きをすることができます。
ということは、認知症の疑いのある親から子供に不動産の名義を変えれば自由に売れるのではないか?とよからぬ手段を思いつく人がいるかもしれません。
しかし、これはもちろんアウトです。
売買したことにして、仮に名義を子供の名前にしたとしても、実際にお金が動いていなければその売買契約は架空ですし、贈与であれば多額の贈与税が課税されます。
何より、不動産の名義変更を行うと年月日が記録されますので、売買直前に書き換えられた不動産を売却しようとすると全登記名義人に売買の事実を確認するなど必要なことをします。
住宅ローンが払えないは正当理由になるのか?
では、住宅ローンの支払いができない場合は、売却理由として認められるのか?について解説したいと思います。
単にローンの返済ができない。というだけでは不動産を売却することはできません。
例えば、本人と配偶者が共有で不動産を所有しており、本人のローン支払い割合が著しく低く、配偶者の所得だけで十分住宅ローンが払っていける場合や本人に十分な預金がある場合などは認められる可能性は低いと言わざるを得ません。
配偶者には配偶者の扶養義務がありますし、親子でも同様です。単に本人に資力がないからというだけでは認められないという事になります。
しかし、本人に資産がなく、住宅ローンの支払いが滞っている若しくは滞ることが確実である場合などは、そのまま時間が経過すれば競売という手続きにより不動産を失う事になります。
競売の募集価格は、一般相場の半額程度になりますので、競売での処分は本人の財産を減少させることにつながる可能性が高くなります。
それを避けるために、不動産を市場価格で任意売却する。というのは、本人の財産を守る目的に合致していますので、裁判所の許可も得やすいです。
ちなみに、裁判所は売却する金額についても精査しますので、著しく安い金額で家族や親しい人が購入しようとしても、それが認められる可能性は低いです。
裁判所は「どの不動産を、どのような条件で、誰に、いくらで売るのか?」「なぜ売る必要があるのか?」「売却が合理的な理由で行われるのか?」という点について審査を行います。
家族の都合の為に売るのではなく、本人の利益のために売却するという要素が重く見られます。
余談ですが、相続対策の為。というのは相続人の為であって本人の為ではありませんので、認められません。
「親が借金を残すと子供が困るから売る」という理由はダメですが、「親が負債を抱えることを避けるために売る」ならOKという事になります。
これが認知症でも任意売却をする方法です。
当事務所では、必要な費用は、任意売却の経費として債権者に認めてもらう方法等があり極力ご負担がないような提案をしております。
注意しなければいけないのは、成年後見人の申請にも時間がかかりますので、競売が開始されてからでは間に合わない可能性が非常に高いという点です。
当事務所では、成年後見人の申請手続きなどについてのご相談や専門家のご紹介もしております。
認知症の親に代わって任意売却をする手順
では次に、認知症の親に代わってどのように任意売却をしたらよいのか?について解説をしていきたいと思います。
1.ご相談
まずは、現在の状態をお聞かせください。
不動産の所在、現在の負債、督促状態、ご本人の症状などについて確認させていただきます。
2.査定
売却するとしたら、何か支障になるものはないか?価格はいくらが妥当なのか?について当方にてお調べいたします。
3.任意売却の可否の判定
裁判所の許可が得られる見込みがあるのか?債権者の同意を得ることができる見込みがあるか?買主が存在する地域(マーケット)なのか?という要素について当方にて調査をいたします。
4.債権者と予備交渉
販売する価格について、また販売する際の売却経費を売却代金から捻出できるかどうか債権者と私が交渉をいたします。
5.販売
実際に買主を募集する活動に入ります。
6.売買契約
買主が発見できた場合、売買条件等について明記した書類を作成いたします。
7.裁判所、債権者の承認
売買した内容について裁判所、債権者に許可、承認を得ます。
8.名義変更、代金受領
買主から代金を受領し、債権者に返済を行い手続き完了となります。
将来不安な場合
今現在は、何とか住宅ローンの支払いができているけれど、この先5年後10年後は心配。という場合もあるでしょう。
こんな時に役立つのが任意後見や家族信託です。
どちらも、本人の意思確認ができるうちに手続きを取ることが必要になりますが、成年後見人制度よりも使い勝手が良いのが特徴です。
まとめ
●認知症でも状況によって任意売却は可能
●裁判所の許可を得る必要がある
●違法手段はご法度
●ある程度の時間がかかる
●本人の意思がはっきりしているなら、任意後見や家族信託もあり
この記事を書いた専門家
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(有)ライフステージ代表取締役
「不動産ワクチンいまなぜ必要か?」著者、FMヨコハマ、FMさがみ不動産相談所コメンテーター、TBSひるおび出演。単に家を売るだけでなく「お金に困らない暮らし」を提案している
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