不動産競売、引渡し命令とは

不動産競売引渡命令とは

今回は競売手続きにおける引渡命令についての解説です。

引渡し命令とは

一般の不動産売買の場合、売主は買主に不動産を引渡しをする代わりに代金を受け取ることができるという約定をして売買契約を締結します。
双務契約といいますが、互いに約束を履行する義務を負います。

売主は、不動産を引き渡す義務、買主は代金を支払う義務という具合です。
従って、例えば売主が不動産を買主に引き渡さない場合、買主は代金の支払い義務を履行しなくても良い。という事になります。

裁判所が行う不動産競売の場合、双務契約ではありません。
落札者は単なる所有権を手に入れたという位置づけにしかありません。

所有権を手に入れても、元所有者が立ち退かず、不動産が使えないのであれば困ってしまいます。 そこで民事執行法では、競売の落札者が元所有者や占有者に明け渡しを要求できる権利を認めています。 裁判所のホームページにも記載があります。 法律的には民事執行法の第83条です。 条文でもご覧いただきましょう。

(引渡命令) 第八十三条 執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
3 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第一項の規定による決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。ただし、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、又は既にその者を審尋しているときは、この限りでない。
4 第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。

どんな場合でも引渡命令は申請できるのか?

競売の落札者であれば、どんな場合でも引渡命令の申請ができるのか?という点についても触れておきたいと思います。
前段で引用した通り、競売の落札者は代金納付した日から六か月を経過した場合は「引渡命令」の申請をすることができません。

また、競売の元となる抵当権の登記が不動産になされる前から居住していた賃借人に対しては引渡命令を出すことができません。
何故なら、抵当権者は賃借人がいることを承知の上で金銭を貸し付けているので、仮にその債務が貸し倒れたとしても債権者を保護する必要がないからです。

引渡命令への対抗手段はあるか?

落札者が裁判所に引き渡し命令を申し立てると、事務手続きを経て相手方に引渡命令正本が送達されます。

引渡命令正本が送達された日の翌日から1週間以内という期限付きですが、「執行抗告(しっこうこうこく)」という不服の申立てをすることができます。
但し、執行抗告が認められる可能性は極めて低いというのが現状です。

何故なら競売の申立て後、裁判所は現況調査という調査を行っているからです。

この調査時に、引渡し命令が出せる不動産か否かの調査も行われています。

というのも、落札者にとって引渡命令が出せる物件か否か?という要素は、購入希望価格を算出する際に非常に重要な要素になるからです。
購入しても自分で使うことができない不動産と、自己利用できる不動産。

どちらが価値が高いか言うまでもありません。

また、民法第395条により抵当権に対抗できない賃借人であっても落札者の代金納付から6か月間は、引渡しをする必要がありません。

引越し先がない場合は?

引越し先ない

「明け渡せって言ったって、引っ越す費用もない」そのような状況であることは珍しくありません。

確かに住宅ローンの返済ができない程、生活が困窮していれば手持ちのお金は底をつき、次に借りる家の費用や引越し屋さんに払う費用が手元にないという状況でも無理はないかもしれません。

気持ちは非常に分かりますが、残念ながらこの主張は通らないのが現実です。

このような弁明が通ってしまうと、競売に入札する人が減ってしまいますから裁判所で強制的に不動産を明け渡す手続きが用意されているのです。
引越先が見つからずに時間が経過するとどうなるか?については、後述する「引渡命令を無視していると」をご覧ください。

引渡命令を無視していると

引渡命令に執行文が付与されると、強制執行を行うことができます。
強制執行とは、不動産の占有者の意向にかかわらず、強制的に荷物を搬出されてしまう手続きです。

「強制」と名前が付く通り、部屋の鍵が施錠されていてもそれを占有者の同意なく解除することが認められています。
室内に入ることができないよう、バリケードを設置したり執行官を抑制したりすると、公務執行妨害罪という罪よりも重い罪
「強制執行行為妨害等罪」に問われる可能性が高くなります。
3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科。となります。

家を取られた上、強制的に退去させられる事について人権は守られないのか!?という意見があります。
確かに、非常に厳しい手続きであることは間違いありません。

しかし、法律の精神は全ての人に平等が大原則でできています。

債権者にとっては、債務の返済が滞ってから回収するまでは、それなりに長い月日をかける必要もあります。
競売の費用も100万前後かかることも珍しくありません。
競売手続きにおいて、いくらで売れるかも分からない状態です。

落札者である買受人にとっては、明渡までの間に自殺や火事等の発生しないとも限らないというリスクを背負っています。
置かれる立ち位置が違うと見える世界も違いますが、債権者だけが得をする制度ではありませんし、落札人だけが得する制度でもありません。

もちろん、元所有者だけが損する制度でもないということになります。

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この記事を書いた専門家

宅地建物取引士杉山善昭
宅地建物取引士杉山善昭任意売却の専門家
(有)ライフステージ代表取締役
「不動産ワクチンいまなぜ必要か?」著者、FMヨコハマ、FMさがみ不動産相談所コメンテーター、TBSひるおび出演。単に家を売るだけでなく「お金に困らない暮らし」を提案している
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